TOMOKO INAGAKI
稲垣 智子
稲垣 智子「Forcing House」
映像や写真、インスタレーションなど様々なメディアを複合的に扱う稲垣の作品では、我々が普段、日常生活の中で無自覚に行なっている行為や習慣に焦点が当てられ、極度に誇張したり過剰に反復するなどの操作を加えることにより、その行動の中に潜む不条理さや暴力性が浮き彫りにされています。それは、人々が操作されていることに気付かないまでに高度に洗練された消費システムへの言及であったり、また、相矛盾しながら声高に欲望と不安を掻き立てる情報の渦の中で袋小路に陥った現代人の煩悶を、あたかも作品という名の水晶玉の中に透視しているかのようにも思われます。
マジックミラーで囲われた温室型のビデオインスタレーション「Forcing House」は、昨年2月に京都芸術センターで開催された個展「展覧会ドラフト2013 Project 'Mirrors'」にて発表されたもので、今回が東京での始めての展示となります。タイトルの「Forcing House」には、作物の成長を意図的に早める「温室」を意味すると同時に、その中に閉じ込められた事物に何らかの行為を強要(force)する家、という隠喩が込められています。気温や環境が管理され、一見、植物にとってユートピア的な環境に思える「温室」も、別の観点、例えば作物の成長を故意に促進していち早く市場に出荷し、より多くの利益を上げるための装置、という観点から見たなら、そこには先の楽園とは相反する解釈が成り立ちます。観客はこの温室の中に入ることができますが、床に置かれた植物越しに見える奥の壁面には、息苦しそうに身を屈めた一人の女性の姿が映し出されています。それはそこに並ぶ植物同様、一見楽園的にも思える消費社会に暮らしながら、実は常に何かを強いられ、コード化された種々の抑圧にさらされている現代人の鏡像と捉えることができるかもしれません。
■ 稲垣 智子 (Tomoko INAGAKI)
1975年大阪生まれ。2001年英国国立ミドルセックス大学美術学部卒業。イギリス留学時よりパフォーマンス表現に関心を抱き、その後その記録として撮り始めた映像から、時に家具や衣服などの装置を用いたビデオインスタレーション型の作品を展開。国内では「こもれび」(2003年、水戸芸術館)、「大阪・アート・カレイドスコープ - 春・花・生」(2004年、CASO)、「夏の蜃気楼」(2005年、群馬県立館林美術館)、「間 - あいだ」(2010年、同志社女子大学 mscギャラリー)等の展覧会歴がある他、海外での滞在制作発表も多い。本年4月には米国バーモント・スタジオ・センターのレジデンシー・プログラムに参加予定。
作家ウェブサイト:
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会 期: 2014年3月8日 [土] 〜 23日 [日]
火 - 土 12:00-19:00 日 12:00-17:00 / 月休 *3月21日 [金・祝] は開廊
■ 3月8日 17:00〜 アーティスト・トーク「アーティストの考え」ゲスト: 國府理(美術作家)/ 18:00〜20:00 オープニングレセプション
協力:神戸アートビレッジセンター / プレス写真:増田好郎
[ プレスリリース(PDF) ]
JP / ENG
Works
2013年、ビデオインスタレーション(映像 10min. loop、 温室、観葉植物、人工観葉植物、照明)、202x181x210cm
2013年、金のネックレス、布、パネル、80x80cm
2014年、ミラーフィルム、鏡、額、 31.2x40.3x5cm
2014年、ミラーフィルム、鏡、額、 31.2x40.3x5cm
2014年、ミラーフィルム、鏡、額、 31.2x40.3x5cm